宅建業免許における支店は、本店とは異なり実際に宅建業を営む支店のみ支店として扱われます。(ちなみに登記上の本店は、宅建業を営む営まないにかかわらず、宅建業免許制度上「本店」と見なされます。)従って、不動産会社に登記上の支店がある場合であっても、その支店において宅建業を全く営まないのであれば、宅建業免許上の支店にはあたらず、届出などは不要です。
逆に「営業所」や「出張所」「事務所」など、支店という名称を使用していない場合であっても、そこで不動産業を営むのであれば、免許制度上の従たる事務所として支店扱いとなりますのでご注意ください。
支店の設置場所による手続きの違い
本店のみで営業していた宅建業者が、新たに支店を設置する場合、その支店の設置場所によって宅建業免許上の手続きが大きく異なってきます。なお、支店(従たる事務所)を設置する際の流れにつきましては、不動産業者の支店(従たる事務所)設置の流れをご参照ください。
同一都道府県内に新たな支店を設置する場合
既に営業している宅建業上の本店と同じ都道府県内に、新たに支店を設置するという場合、宅建業免許制度上は「支店の設置」という変更届を行わなければなりません。この際、新たな支店には宅建業免許上の政令使用人や専任の宅地建物取引士の設置が求められますし、分担金(または供託金)の積み増し手続きなども同時に必要となります。
他の都道府県に新たな支店を設置する場合
この場合は、上記の同一都道府県内に新たな支店を設置する場合と異なり、宅建業免許自体を大臣免許に切り替える「免許換え」の手続きが必要となります。免許換え手続きは変更届とは異なり、新たに大臣の免許を取得しなおす形となりますので、新規に宅建業免許を取得するのと同様の書類作成・添付資料収集などが求められることになります。
保証協会を利用する宅建業者が別の都道府県に支店(従たる事務所)を設置するときは、行政庁への免許換え手続きと並行して、本店側の保証協会や支店を設置側の保証協会で変更届や入会届など、新たな手続きを行わなければなりません。
この大臣の宅建業免許は行政庁へ申請所を提出してから3ヶ月以上の審査期間を要することが多いので、支店の開業予定日などが決定している場合などは、その半年くらい前から免許換えの手続きを進めておかなければ、開業日に宅建業を営むことが不可能になってしまいかねません。この点、十分ご注意ください。
宅建業免許の手続きと登記上の手続き
このように、新たな支店を設置する場合、宅建業免許制度上は行政庁に対して変更届または免許換えの手続きが必要となります。これとは別に、新たに設置する支店を登記上も支店として扱う場合には、商業登記上の手続きも行わなければなりません。以下、場合分けして必要となる手続きを列挙します。
新たな支店を登記上も支店として扱う場合
つまり登記上の支店を新たに設置し、そこで宅建業を営むという場合です。
1)同一都道府県内に支店を設置するときは
法務局側で支店設置の登記変更と、管轄行政庁側で宅建業免許の変更届を進める必要があります。
2)他の都道府県内に支店を設置するとき
法務局側で支店設置の登記変更と、管轄行政庁側で宅建業免許の大臣免許への免許換えを進める必要があります。
新たな支店を登記上の支店としない場合
登記上の支店ではないものの、従たる事務所で新たに宅建業を営むという場合です。
1)同一都道府県内に従たる事務所を出すとき
登記上の支店ではないので、法務局側での変更登記は不要。管轄行政庁側で、宅建業免許の変更届を進める必要があります。
2)他の都道府県内に従たる事務所を出すとき
登記上の支店ではないので、法務局側での変更登記は不要。管轄行政庁側で、宅建業免許の大臣免許への免許換えを進める必要があります。
このパターン、つまり新たに宅建業を営む従たる営業所を設置するものの、登記上は支店として扱わないというパターンでは、宅建業免許制度上、多少注意が必要な点があります。
それは、従たる事務所の名称を「○○支店」など支店という単語を使ってしまうと、審査する行政庁から「なぜ登記上は支店としていないのに、宅建業上は支店という名称が使われるのか。責任者の権限や所在の説明を含めた理由書等を提出してほしい」という要望が出てしまうことがあるためです。
追加提出を求められる書類や判断基準は各地方整備局によって異なると思いますが、理由書の提出を含め手続き上の面倒が増えますし、行政庁によっては支店の名称を使用することを認めない場合もあるかもしれません。
以上の理由から、名称は支店にこだわらず「○○営業所」などでもよいというのであれば、従たる事務所に「支店」という単語は使わないほうがスムーズです。