営業上の理由、または頻繁な本店移転登記(とそれにかかる登録免許税など)を回避する目的などから、代表取締役の自宅を登記上の本店としたり、自社ビルの1つを便宜上本店としている会社は多いですね。
しかし、宅建業免許を受けようとする状況において、上記のような便宜上の本店所在地は、免許の取得を困難とさせる要因として働きます。
宅建業免許では「登記上の本店=宅建業を営む事務所」
理由は、宅建業免許制度上は登記上の本店を宅建業上の事務所とみなされてしまうからです。
登記上の本店が問答無用に宅建業上(つまり不動産業を営業する)事務所とみなされてしまうということは、実際は支店(従たる営業所)のみで宅建業を営む予定でも、本店も含めて宅建業の事務所として免許申請を行わなければなりません。
つまり、供託金や専任の宅地建物取引士など、事務所ごとに満たさなければならない基準に大きく影響してくることになります。この部分の詳細は宅建業免許の事務所 本店と支店をご参照ください。
登記上の本店が実際の本店と異なる場合
実際上機能している本店と、登記上の形式的な本店が異なる場合、宅建業免許行政では建設業許可行政などと異なり、「登記上の本店は宅建業上の事務所ではなく、別の場所が実際の本店である」という扱いをとってもらえません。
そこで、その対処方法として、以下2通りの対処法のいずれかを選択して体制を整える必要が生じます。
A.登記上の本店所在地を実際の本店と合わせる
便宜上、登記上の本店と実際の本店を異なる扱いにしていたのですから、宅建業免許の申請前にこの相違を合致させます。要は、登記上の本店を実際の(活動している事務所としての)本店へ移転させる登記を行うということです。
本店を移転する方法の短所
この場合、同じ法務局管轄内であっても3万円、異なる法務局管轄では6万円の登録免許税などが、最低限のコストとしてかかります。
また、それまでの契約関係や事務用品なども登記上の本店が記載されているはずですし、社会保険や税務関係なども移転の届出など手続きが必要となってくるため、免許取得前の各種手続きはかなり煩雑となります。
B.登記上の本店に宅建業上の事務所を設置する
登記上の本店を移転させるのとは逆に、それまで形式的にしか存在していなかった登記上の本店に、宅建業上の事務所を設置(開設)する方法です。
代表取締役の自宅が登記上の本店とされている場合にはとりにくい手段ですが、自社ビルで空き部屋などが確保できるのであれば、この方法で対処できることもあるでしょう。
登記上の本店に事務所を開設する短所
新たに登記上の本店に事務所を開設し、ここのみで宅建業の営業を開始するなら問題はありません。しかし、この事務所以外に本来実質的な本店として稼働していた事務所も並行して宅建業を営む場合、登記上の本店に設置した事務所で専任の宅地建物取引士を設置した上、従来の実質的本店であった事務所にも専任の宅地建物取引士を設置しなければなりません。
また、供託金(分担金)も事務所2箇所分が必要となるなど、手間やコストがかかってしまいます。